2020年代

受賞作・作者 解説
2024年
/第28回
「プリニウス」

ヤマザキマリ、とり・みき

連載:「新潮45」(新潮社)

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古代ローマの博物学者プリニウスを主人公に、皇帝ネロが権力を振るった時代が重厚感たっぷりに描いている。

作者は映画になった大ヒット漫画「テルマエ・ロマエ」のヤマザキマリさんと、とり・みきさん。とりさんは「テルマエ」の終盤に背景を描くのを手伝い、その重厚さや独創性にほれ込んだヤマザキさんが合作を申し入れた。冒頭で登場する噴火のシーンも迫力満点だ。

プリニウスは百科事典のような著書「博物誌」で知られる。好奇心旺盛な人物で紀元79年、火山の大噴火を観測中に56歳で命を落とした。今作はプリニウスが付き人と各地を巡り、見聞を記した様子を中心にストーリーが進む。
2023年
/第27回
「ゆりあ先生の赤い糸」

入江喜和(いりえ・きわ)

連載:BE・LOVE(講談社)

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主人公の女性(ゆりあ、50歳)は、自宅で手芸教室をこぢんまりと営みながら、夫と義母の3人で暮らしていた。しかし、夫が突然病に倒れ、昏睡(こんすい)状態となってしまう。しかもそれをきっかけに、予想もしなかった夫の一面が明らかになる。自分と夫を結びつけているもの、それはいったい何なのか?
2022年
/第26回
「チ。―地球の運動について―」

魚豊(うおと)

連載:ビッグコミックスピリッツ(小学館)

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中世ヨーロッパをを思わせる時代に、地動説を証明しようとする人たちの物語。

舞台となる15世紀のP王国では、宗教組織が絶対的な権力を握っており、その規律に逆らうことは許されない。天動説に疑問を投げかけることはタブーであり、地動説を唱えることは拷問や処刑の対象にもなる。

こうしたなか、科学的な真実を求めて一部の人たちが地道な努力を重ねる。1人の天才による取り組みではなく、さまざまな人たちが関与する集団劇として展開される。

地動説は何度も闇に葬られそうになるが、観測データや計算式が連綿と引き継がれ、数十年かけて少しずつ洗練されていく。
2021年
/第25回
「ランド」

山下和美

連載:モーニング(講談社)

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山に囲まれた「この世」と呼ばれる村で暮らす人々。山の向こうは「あの世」と呼ばれ、巨大な「神様」が四方から人々を監視している。生きた人間は「あの世」に立ち入ることができない。
テーマは「人間」「社会」「生と死」。大きなテーマを大きな物語でじっくりと時間をかけて描いている。大作である。
2020年 「ニュクスの角灯(ランタン)」

高浜寛

連載:コミック乱(リイド社)

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ニュクスの角灯(ランタン)は、1878年(明治11年)の長崎とパリを舞台に、西南戦争で親を亡くした少女が道具や美術工芸品の貿易に関わりながら成長していく人間ドラマ。2015年から月刊誌「コミック乱[らん]」(リイド社)で連載している。単行本4冊が刊行されている。

高浜さんは熊本県天草市出身。2001年に漫画家デビュー、ストーリー性の高さなどが国内外で評価されている。

ニュクスの角灯で描く舞台は、世界が第3回パリ万博に湧き、日本が近代化への道を歩み始めた1878年(明治11年)の長崎。眼鏡やミシン、チョコレートなど、現代では当たり前の品物が日本にやって来て間もない頃である。夢のような品々に人々が心を躍らせていた時代を、綿密な取材を基に生き生きと描写し、初めての驚きに満ちあふれていた世界へ私たちをいざなう。

主人公の美世は西南戦争で親を亡くした。父には昔から「女は字なんか読めん方がよか」と言われ、言いたいことも言えない内気な性格だった。唯一のとりえは、物に触ると過去や未来の持ち主が分かる“神通力”があること。その能力を買われ、輸入品を扱う道具屋で働き始める。読み書きも一から習い、店主がパリから持ち帰った西洋の品に初めて触れては、まだ見ぬ世界で起きている出来事に心躍らせる。美世がこれまで生きてきた夢も希望も無い真っ暗な世界に、知識を得る喜びが光を照らすのだった。

(参考:AI Referee

2010年代

受賞作・作者 解説
2019年 その女、ジルバ

有間しのぶ

連載:ビッグコミックオリジナル(小学館)

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2011年2月から2018年8月まで連載された。

「彼氏なし、キャリアなし、貯金なし」と切羽詰まった40代独身の主人公の女性が、高齢者ホステスのバーで働き始めたことから始まる人間ドラマ。戦中戦後の混乱を生き抜いた昭和の女性たちと、"負け組"と切り捨てられた平成の女性たちの生き方を描いている。

 主人公の有間しのぶは、福島県会津若松市出身。作中では、主人公の帰省先として会津若松などが登場する。東日本大震災や東京電力福島第1原発事故に伴う避難住民の状況や心情にも触れている。
2018年 ゴールデンカムイ

野田サトル

連載:週刊ヤングジャンプ(集英社)

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2014年に連載をスタート。日露戦争の武功から「不死身の杉元」とあだ名される主人公が、狩りの達人であるアイヌ民族の少女と共に、隠された金塊を探して北海道の山野を行く。軍、新選組の残党、脱獄囚らが入り乱れるバトルロイヤルが展開される。

アクション、ギャグ、グルメ、歴史、アイヌ文化の細緻(さいち)な描写と盛りだくさん。作者の野田サトルさんいわく「和風闇鍋ウェスタン」。

手塚治虫文化賞では3年続けての候補入りとなり、投票、推薦ともに1位となった。審査委員会では「今年こそ推したい」(里中満智子)、「面白さが安定している」(ヤマダトモコ)と意見がまとまった。

2018年4月からはテレビ番組にもなった。

2017年 花に染む

くらもちふさこ

連載:Cocohana(集英社)

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「花染町」が舞台の群像劇「駅から5分」の続編で、約10年にわたるシリーズを受賞前年の2016年に完結させた。火災で父母と兄を失った青年陽大(はると)と、従姉(いとこ)の雛(すう)、幼なじみの花乃(かの)、陽大に一目ぼれした楼良(ろうら)。「過去の傷の克服」をテーマに、弓道で結びつけられた4人の揺れる心模様を繊細に描く。

語り口は禁欲的。弓道さながら、静かな緊張感と気迫がみなぎる。並んで射る団体戦で、雛と花乃と楼良の所作がウェーブのような流れを作り、通じ合う心を映す。

手塚治虫文化賞の選考会では「読者を選ぶところはあるが完成度も作家性も高い」(中条省平)などと支持を集め、大賞を得た。

作者のくらもちふさこさんは1972年にデビュー。「いつもポケットにショパン」「おしゃべり階段」など、少女マンガの傑作を数多く発表してきた。

2016年 鼻紙写楽

一ノ関圭

連載:ビッグコミック(小学館)

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老中田沼意次の失脚から寛政の改革へ移る時代を背景に、上方の実在の絵師如圭を後の写楽と位置づけ、五代目市川団十郎とその娘、息子らが絡む濃密なドラマを展開する。2001年から2009年まで描き継いだが、掲載誌の休刊で中断を余儀なくされた。描き下ろしを加えて昨年出した単行本は「四半世紀ぶりの新刊」と話題になった。卓抜した画力、綿密な考証、キレのいいせりふ、香気豊かな江戸情緒を愛するファンも、この寡作ぶりには泣かされる。

作者の一ノ関圭さんは秋田県出身。東京芸大で油絵を学んでいたが「何かが違う」と感じ、幼い頃から親しんだマンガへ。1975年にビッグコミック賞を得た「らんぷの下」でデビューした。

よつばと!

あずまきよひこ

連載:月刊コミック電撃大王(KADOKAWA)

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2003年から「月刊コミック電撃大王」(KADOKAWA)で連載。ある町に「とーちゃん」と引っ越してきた5歳の元気な女の子「よつば」の日常を丁寧に描く。花火、自転車、お菓子作り、キャンプ……。よつばは未知の世界に触れ体全体で喜びを表す。

かわいさに癒やされるユートピアであり、子供のいる日常のリアルもある、不思議なマンガ。流れる時間もゆっくり。受賞時点では13巻まで進んでいたが、劇中では4カ月足らずしか経っていなかった。

選考委員会では、「渾身(こんしん)の力作」(みなもと太郎)と「鼻紙写楽」を推す声に対し、「よつばと!」は「リアルだけれどファンタジー。そのさじ加減が絶妙」(あさのあつこ)、「子育てに希望が持てる」(杏)と女性陣が支持し、2作品の受賞となった。

作者のあずまきよひこさんは1968年、兵庫県生まれ。初連載の「あずまんが大王」は、個性豊かな女子高生たちのユーモラスな学園生活を描き、アニメ化もされた。

2015年 逢沢りく

ほしよりこ

連載:別冊文藝春秋(文藝春秋社)

上巻(Amazon)→
下巻(Amazon)→
鉛筆だけの素描のように描かれた、ゆるいタッチの漫画。

主人公の逢沢りくは14歳。潔癖症で感情の起伏に乏しい。 素敵なパパとママ、裕福な暮らし、恵まれた美貌。どれをとっても完璧なのに彼女はちっとも幸せそうではない。 特技は自在に涙をこぼせること。 悲しみがどういうものか理解出来ないのに、人が悲しむような場面では、まるで水道の蛇口を捻(ひね)るように最も簡単に涙を流してみせる。 その涙は大人たちを勘違いさせるに十分だった。

そんな彼女が両親の勝手な都合で関西の親戚の家でしばらく暮らすことになる。 関西人も関西弁も大嫌いで〈私は絶対になじまない〉と誓う彼女の気持ちなどお構いなく、ぐいぐい迫ってくる親戚一家や転校先の同級生。得意の泣きワザも通じず、東京では孤高と受け取られた言動もツッコミ対象になる。

作者のほし・よりこは1974年生まれ。インターネットでの連載「きょうの猫村さん」が書籍化され、ベストセラーになった。
2014年 3月のライオン

羽海野(うみの)チカ

連載:ヤングアニマル(白泉社)

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将棋をテーマにしている。事故で両親と妹を失い、逃避するように将棋に打ち込む高校生のプロ棋士・桐山零が主人公。 将棋棋士たちの心理描写の深さや独特の空気感が高く評価された。
2013年 キングダム

原泰久

連載:週刊ヤングジャンプ(集英社)

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2012年 ヒストリエ

岩明均

連載: 月刊アフタヌーン(講談社)

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歴史漫画。人間に寄生するエイリアンとの戦いと共生を描いた「寄生獣」(講談社)の岩明均が、アレキサンダー大王の書記官エウメネスの生涯を描いた。登場人物たちは機知に富み、政治にたけ、策略を巡らせる。
2011年 JIN-仁-

村上もとか

連載:スーパージャンプ(集英社)

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竹光侍

松本大洋(原作:永福一成)

連載:ビッグコミックスピリッツ(小学館)

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2010年 へうげもの

山田芳裕

連載:モーニング(講談社)

全巻(Amazon)→

(参考:プレナス投資顧問

2000年代

受賞作・作者 解説
2009年 劇画漂流

辰巳ヨシヒロ

連載:まんだらけZENBU

大奥

よしながふみ

連載:MELODY(白泉社)

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2008年 もやしもん

作者

連載:イブニング(講談社)

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2007年 舞姫 テレプシコーラ

山岸凉子

連載:ダ・ヴィンチ(メディアファクトリー)

1970年代に一世を風靡(ふうび)したバレエマンガ「アラベスク」を完成させた後、「しばらくバレエのことを忘れていた」と山岸凉子さん。それが、1989年にローザンヌ国際バレエコンクールで熊川哲也が日本人初の金賞を受賞したのを見て、「これでまた、バレエのマンガを描ける」とひらめいた。
2006年 失踪日記

吾妻ひでお
2005年 PLUTO(プルートウ)

浦沢直樹(原作:手塚治虫)

連載:ビッグコミックオリジナル(小学館)
2004年 ヘルタースケルター

岡崎京子

連載:FEEL YOUNG(祥伝社)
2003年 黄色い本 ジャック・チボーという名の友人

高野文子

連載:月刊アフタヌーン(講談社)
本を読むことが大好きな女子高校生が「チボー家の人々」(ロジェ・マルタン・デュ・ガール著)という長編小説を読み進める。読みでいるうちに、登場人物のジャック・チボーたちと言葉を交わすようになる。
2002年 バガボンド

井上雄彦

連載:モーニング(講談社)
2001年 陰陽師

岡野玲子(原作:夢枕獏)

連載:コミックバーガー→コミックバーズ→月刊メロディ(スコラ、白泉社)
2000年 西遊妖猿伝

諸星大二郎

連載:月刊モーニングtwo(講談社)
(参照:Wakaba AI

1990年代

受賞作・作者 解説
1999年 MONSTER

浦沢直樹

連載:ビッグコミックオリジナル(小学館)
1998年 「坊っちゃん」の時代

谷口ジロー(原作:関川夏央)

連載:漫画アクション(双葉社)
1997年 ドラえもん

藤子・F・不二雄

連載:月刊コロコロコミック(小学館)

戦後児童漫画史に輝く国民的キャラクター。未来からタイムマシンでやってきたネコ型ロボットが、奇想天外な小道具を取り出して活躍する。藤子・F・不二雄さんが中心となり1970年から小学館の学習雑誌に連載開始。単行本で45巻が発行された。テレビアニメの大ヒットと相まって約1億冊を売った。1980年の「ドラえもん のび太の恐竜」を手始めに、劇場アニメ長編映画も毎春の恒例となった。

1996年9月、作者の藤子・F・不二雄さんは、自宅二階の書斎で、仕事机に突っ伏しているのを食事に呼びに来た家族に発見され、救急車で運ばれたが、病院で肝不全のために亡くなった。「月刊コロコロコミック」(小学館)で9月号から連載中の「ドラえもん のび太のねじ巻き都市(シティー)冒険記」の下絵を描いていたという。

安孫子素雄(藤子不二雄(A))さんとのコンビで漫画を描いていたが、1988年、「残りの作家生活を個性的に過ごしたい」として33年間続いたコンビを解消し、これまでの作品の著作権を分割。「ドラえもん」「パーマン」などは藤本さん、「怪物くん」などは安孫子さんに属すことになった。